会社にとって、従業員の定着率は大きな課題の一つです。従業員がすぐに離職してしまうような会社では、大きな成長を期待することはできません。しかし、「従業員の離職防止したいがどうすればいいか分からない」という人事のご担当者もいるのではないでしょうか。この記事では、よくある離職の原因や予防方法、従業員の本音をできるだけ正確に知る方法などについて紹介します。
1.離職でよくある3つの原因
まず、よくある離職原因について紹介します。従業員の口から出る退職理由をそのまま受け取るのではなく、背後にこのような理由が隠れていないか考えてみることが大事です。
1-1.労働条件や給与・待遇が良くない
退職の理由の一つに、「労働条件や給与などの条件面が良くない」という点を挙げる人もいるでしょう。給与や昇給ペース・ボーナスといった金銭面での不満や、長時間労働への不満などから、生活や健康の不安を覚えるようになり離職してしまう可能性があるのです。これを防ぐためには、まず条件面に何か問題がないかについてチェックしてみましょう。
1-2.人間関係に問題がある
「人間関係に問題がある」という場合も、退職の大きな理由の一つです。人間関係といっても、内容は人によって感じ方はさまざまです。上司や部下との関係、同僚との関係に問題がある場合だけでなく、お客様との間で何かトラブルがあって悩まされていた可能性もあります。パワハラやセクハラのような大きな問題はなかったとしても、職場に気の合わない人がいることが原因で退職するケースも少なくありません。人間関係が退職原因になっている場合は、早期に不満や問題に気づいてあげられるような環境が大切です。例えば、問題がある人を別の部署へ異動させるなど、早期に対処すれば退職せずに済むこともあるでしょう。
1-3.会社に不安・心配を感じている
金銭面での条件や、職場での人間関係が特に問題や不満がなくても、「なんとなく会社に対して不満や不安があって退職する」というケースもあります。例えば、キャリアプランを考えて「この会社にいても自分は成長できない」と感じたり、「やりがいのある仕事ができない」と悩んだりして結果的に退職にいたってしまうのです。「この会社では先行きがちょっと心配」という不安を感じて退職する場合もあります。
労働政策研究・研修機構の「若年者の離職理由と職場定着に関する調査」によると、こうした会社への不安は給与やストレスに次いで3番目に多い退職理由になっている点も押さえておきましょう。こうした不安は、あくまでも従業員の主観的なものです。そのため、会社の経営に問題がなかったとしても、それを従業員にきちんと伝えていなければ離職してしまう可能性があります。
2.離職防止をしないと大変なことに
もし、離職者が多いと感じているのであれば、できるだけ早急に対処策を講じる必要があります。なぜなら、何の手も打たないまま業務を継続していると、従業員の減少に歯止めがきかなくなり、現場の仕事にも大きな影響が出てしまう可能性があるからです。従業員が減れば残った従業員たちの負担が増えてしまいます。さらに、「負担が増えた従業員が不満を抱いてまた離職していく」といった負の連鎖に陥ってしまいかねません。
離職を防止するためには、何らかの対処策を講じて従業員満足度を高めていくことが大切です。労働環境を整えて快適、かつ安心して働けるよう配慮することで貴重な人材が流出することを防止できるでしょう。また、やりがいを持ってモチベーション高く働けるように職場を活性化することもおすすめです。お客様や求職者、取引先など社外の人への印象もぐっとアップして業績も上向いていくことが期待できます。
3.いま注目の「リテンション施策」とは?
人事用語として「リテンション施策」という言葉をご存じでしょうか。「リテンション施策」とは、企業が行う離職防止策です。「高齢化が進んで労働人口が減少している」「転職に対してネガティブなイメージがなくなり転職を積極的に考える人が増加している」といったことなどから、良い人材の確保・維持がすべての企業にとって大きな課題になっています。そのため、さまざまな離職防止策や離職防止のためのツール、人材研修などが開発・提供されているのです。離職率の高さに悩んでいる場合は、こうしたサービスの利用を検討して防止策を講じることもよいのではないでしょうか。
4.リテンション施策の5つの柱
では、具体的にどんな対処策を講じればいいのでしょうか。人材の離職防止策、「リテンション施策」の例を5つ確認してみましょう。
4-1.コミュニケーションを活性化する
離職率を改善したい場合は、まずコミュニケーションの活性化が重要です。コミュニケーションを見直すことは、どんな離職原因にも効果が期待できます。なぜなら、早い段階で不満や悩みを拾い上げて、対応することが期待できるからです。「上司と部下」「従業員同士」などで、しっかりとコミュニケーションを取ることで、不満や悩みを相談しやすい環境を整えます。具体的には、お互いに感謝や賞賛を伝え合うことを制度化したり、コミュニケーションの表彰制度を設けたりすることも一つの方法です。また、社内ブログやSNSなどを活用してみることもよいかもしれませんね。
4-2.働きやすい環境を整備する
長時間労働が常態化しているような、労働条件に問題がある場合は、ただちに改善を検討しましょう。働き方改革で、さまざまな働き方を認める会社が増えているため、時代に反するような会社では、他社と比較されて不満を持たれてしまう可能性もあります。例えば、時短勤務やテレワークなど、ワークライフバランスに配慮した柔軟な働き方ができる制度を新設するなどして、働きやすい環境づくりをすることが大事です。
条件面の改善で大きいのは給与アップですが、これをすぐ実行することは現実問題として難しいでしょう。そのため、まずは働きやすい環境を整備し、がんばりをきちんと評価する制度を設けることでモチベーションを高く保ったまま働いてもらえるように工夫することが大切です。従業員のモチベーションを高く保つことで、結果的に会社の業績にも反映される可能性が高くなります。
4-3.評価制度の構築・見直しをする
がんばっている姿を認めてもらえると、従業員のモチベーションアップにつながります。評価に関する不満を少なくするには、人事評価制度を見直すことが必要です。自分の努力や成果が正当に評価されることで「仕事を続けたい」「次もがんばろう」というモチベーションにつながるでしょう。人事考課や目標管理を再考する際は、評価する側の感情論が組み込まれないような仕組みが重要です。
4-4.キャリアプランを提示する
従業員が現在の職場環境や人間関係に不満を抱えており、それが離職につながるケースも少なくありません。そこで、従業員一人ひとりが適した場所で働けるように、企業側が配慮してあげることが重要です。
効果的なリテンション方法の1つとして、「社内FA(フリーエージェント)制度」の導入が挙げられます。社内FA制度とは、従業員が自分の実績や能力などを希望する部署にアピールし、その部署への主体的な異動を可能にする制度のことです。この制度の導入によって、従業員は他の企業に転職することなく、望ましい環境で働けるようになります。また、社内におけるキャリアパスを策定し、キャリアアップの道筋を明確に示すのも従業員のモチベーション維持に有効な方法です。
4-5.スキルアップを支援する
環境に変化がなく、スキルアップも図れないような職場は従業員に不安を与えます。従業員が現在の仕事に満足するためには、「成長している」という実感が必要です。研修やワークショップなどを積極的に行い、従業員のスキルアップを支援していくことが離職防止のカギとなるでしょう。
5.離職防止策の成功事例
離職率を下げるために対策を行い、実際に成果を上げた企業も数多くあります。ここでは、離職防止策を成功させた3つの企業と、実施した対策の具体的な内容について紹介していきます。
・カネテツデリカフーズ株式会社
カネテツデリカフーズ株式会社は、かまぼこなどを製造している老舗食品メーカーです。従来は「仕事は見て覚えるもの」という考え方が社内に浸透しており、新入社員の教育体制やコミュニケーションの量に問題がありました。しかし、新入社員の高い離職率を危惧した企業は対策を講じ、「マンツーマン制度」を導入することにしました。マンツーマン制度とは、1人の新入社員に1人の先輩社員がつき、徹底的に教育を行うという仕組みです。月ごとに達成目標を立て、しっかりと振り返ることで新入社員は成長を実感でき、先輩社員の教育能力も向上するようになりました。この施策を導入した結果、かつては50%を超えていた新入社員の離職率を数%まで減少させることに成功しました。
・株式会社ビースタイル
株式会社ビースタイルは、パートタイム型人材派遣サービスなどを提供している企業で、特に結婚や出産を契機に退職した女性に活躍の場を与えることに力を入れています。この企業では、社内のコミュニケーション不足が問題となっていました。そこで、マネージャーとの面談や、経営層に意見を伝えることができる「全社日報」などを導入しました。同時に、選択式の時短勤務制度を取り入れることで、従業員のワークライフバランスを充実させる試みも実施しています。その結果、もともと20%だった離職率を8%まで引き下げることに成功しました。
・サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社は、ソフトウェア開発を通して社会全体のチームワーク向上を目指している企業です。サイボウズでは、部署間のコミュニケーションが円滑でないことに注目し、部活動という形で組織内の横のつながりを強めるために「社内部活動」の推進を始めました。複数の部署から5人以上の社員を集め、活動報告書を年に数回提出すれば企業から補助が受けられる環境を整えたのです。この施策は、離職率を28%から4%まで引き下げることに貢献しました。また、社内のコミュニケーションが円滑になることで、業務のスピードアップにもつながったそうです。
6.離職する可能性が高い従業員を把握する方法
離職の可能性が高い従業員を事前に把握できれば、効果的な離職防止策を講じることも可能になります。ここでは、離職する可能性が高い従業員を把握する方法を2つ紹介します。
・予測ツールを利用する
勤怠管理ツールなどの中には、従業員の離職リスクが予測できる機能を備えたものがあります。従業員の離職はどんな企業にとっても備えておく必要がある問題であり、ニーズが高いので多くのツールが予測機能を用意しているのです。こうした機能では、過去に離職した人の共通点を洗い出し、それを現在の従業員に当てはめて離職リスクを算出します。離職しやすさを傾向から割り出すという方法なので、潜在的な離職リスクも可視化することができ、企業は効果的に人材流出を防止できます。
・定期的に面談を行う
離職防止を図るうえでは定期的に面談を行うことも重要です。コミュニケーションの場を定期的に設けることで、従業員の変化にも敏感に気付けるようになります。遅刻や報告漏れが多い、自己肯定感が低い、同じ失敗を繰り返すなど、離職リスクが高い従業員には一定の特徴があります。面談はなるべくマンツーマンで行い、従業員のわずかな変化に注意を払いましょう。離職しやすい従業員の特徴を把握したうえで、一人ひとりを丁寧に観察すれば、まだ顕在化していない離職リスクにもいち早く気付けるはずです。
7.離職理由を知りたいなら社員の声を聞くのが効率的!
よくある離職理由とリテンション施策の例などを紹介しました。しかし、今すぐ退職者を減らしたい場合は、「自社の従業員が何に一番不満があるのか」を明確に知って対策を講じることがポイントです。このとき、退職理由をダイレクトに聞いても本音が出てくるとは限りません。そこで、活用したいのが「従業員満足度調査」です。これは、匿名でのアンケートのため、従業員が本音を伝えやすく退職につながるような不満点を洗い出し、把握するのに役立ちます。社員の不満を知るには、社員から直接聞けるような仕組みを作っておくとよいでしょう。
8.従業員の本音を知って効果のある離職防止策を打とう!
従業員の離職には、必ず何かしらの原因があります。人事としては、まず離職原因を正しく把握することで離職率の改善が期待できるでしょう。原因が何か分からずに悩んでいたり、離職防止策を打ってもなかなか効果が出なかったりする事態を防ぐためには、従業員の不満を正確にリサーチできる仕組みを考えてみましょう。サービス業の場合は、例えば「H&G」の従業員満足度調査を検討してみてはいかがでしょうか。