サービス業において重視されるもののひとつに接遇マナーがあります。似た言葉として接客マナーがあるものの、両者の違いが明確にわからないという人も多いのではないでしょうか。もしくは、接遇は秘書の業務や特別な顧客を接客する際に必要なものというイメージを持っている人もいるかもしれません。この記事では、接遇マナーの基本的な概念と必要性、身につけることで得られるメリットについて解説します。
1.接遇マナーと接客マナーの違いとは
接客マナーは接遇マナーの一部です。接遇マナーは接客マナーのワンランク上の位置づけにあります。両者の違いは、サービスを行う側の積極性です。サービス業では、お客様に対して直接的なサービスを提供する必要が出てきます。ホテル業を例にすると、チェックインやチェックアウトの業務を行う、質問されたことに答える、料理を提供するなどです。接客マナーは、これらの業務を遂行するにあたって必要なマナーであり、正しい言葉を使うことや間違いのない案内をすることが求められます。
一方、接遇マナーで求められることは、接客マナーよりもさらに高いレベルです。たとえば、周囲を見渡しているお客様がいたら、何も質問されなくても「どうかなさいましたか?」と声をかけること、グラスが空になっていたら頼まれなくても「お飲み物はいかがなさいますか?」と聞くことなど、プロとしてのスキルが必要です。
接遇マナーが徹底されている場所は、お客様が快適だと感じられる空間になり、支払う対価にも反映されます。そのため、宿泊や交通、介護などの分野では接遇マナーが重要視されるケースが増えています。
2.接遇マナーはなぜ必要とされるのか
多くのサービス業では、接客マナーに問題がなければ業務を遂行することは可能です。それにもかかわらず接遇マナーが重視されるのは、お客様とサービスを行う側の両者が不愉快な思いをすることなく、円滑なコミュニケーションを図るためです。マニュアル通りの仕事ができていれば日々の業務はこなせるでしょう。
しかしサービスを提供する側からすると、対応の仕方や雰囲気を工夫することで競合他社との差別化を図れるということもあり、業務の遂行のみならず「おもてなしの心」を持って顧客と接し、ロイヤルティを高めることに注力する企業が増えています。
たとえば、介護現場においては、業務を行う際に利用者との距離感が非常に近くなります。そのため介護スタッフと利用者の間に信頼関係を築くことが必要不可欠です。利用者が「このスタッフには安心して任せられる」と感じていれば両者の息が合った介護が可能になるものの、そうでなければ、命にかかわる事故が起きる可能性もあります。
ホテルや高級レストランなども、接遇マナーが重視される場所です。すべてのお客様に対し、敬意を払い、失礼のない接客をするためには、接遇マナーが必須だと考えましょう。お客様によって接客態度を変えることなく、一定の距離を保ちながらも、おもてなしの心が伝わるよう、気配りと目配りを徹底することが大切です。また、幾度となく利用しているお客様に関しては、名前や嗜好などを把握したうえで接客することを心がけましょう。
3.接遇マナーの5原則
接遇マナーには5つの原則があります。いずれも、人間関係の構築や上質なサービスを提供するために不可欠なものです。ここでは、5つの原則について詳しく解説します。
挨拶
業種を問わず、挨拶は気持ちよく業務を行うために必須の要素です。特に初めて会話を交わす人にとっては、挨拶の良し悪しがその人物の第一印象になります。明るく爽やかな挨拶で好印象を与えることで、その後のコミュニケーションも円滑に行えるでしょう。ポイントは、業種や職種など、対応する人に合わせた挨拶を行うこと、相手の目を見てにこやかに接すること、聞き取りやすい話し方を心がけることです。自分が忙しいときでも、挨拶は必ず相手のほうへ体を向けて行いましょう。
身だしなみ
身だしなみでもっとも重要なのは清潔感です。奇をてらった装いは、人によっては不快に感じることもあります。TPOに配慮し、周囲の環境に合う身だしなみを心がけましょう。
たとえば、介護現場では動きやすさや安全性が重視されます。業務に集中できるよう、動きやすく装飾がついていない服装が理想です。また、露出の多い服装やラフな印象の服装、全身黒色の服などは、利用者が不快に感じる可能性があるため、避けたほうがいいでしょう。ホテルなどでは、皺やシミ、汚れなどがないかチェックし、フォーマルな雰囲気を崩さない着こなしが大切です。
いずれの現場でも、長い爪やアクセサリーはお客様の肌を傷つけたり、業務の効率を悪くしたりする可能性があります。もちろん、センスがよい服装を心がけることは大切です。しかし、自分目線で好きな服装をする「おしゃれ」ではなく、第三者目線で服装を整える「身だしなみ」が重要であることを十分に理解しましょう。
表情
表情はその瞬間の感情が顔に現れるのが一般的です。しかし、接遇マナーにおいては、感情をそのまま顔に出すことは望ましくありません。なぜなら、表情によってお客様が抱く第一印象が決まるからです。口角を上げて目線を合わせ、にこやかな表情で接するよう心がけましょう。
そうはいっても、必要な瞬間だけそのような表情をつくることは非常に難しいものです。普段から鏡の前で練習したり、日常生活でも相手の目を見て話を聞く癖をつけたりすることで、自然と接遇に適した表情をつくれるようになります。だからといって、笑顔一辺倒では、相手の気分によっては共感が持てない人だと認識されてしまうこともあります。相手の感情を読み取り、気持ちに寄り添うことで共感を得やすくなるでしょう。
言葉遣い
接遇マナーにおける基本的な言葉遣いは敬語です。一方、相手の立場や年齢などによって正しい言葉遣いは異なることにも注意しましょう。特にホテル業などでは、高齢のお客様には通じても若い人には通じにくい言葉を使っているケースもあります。また、子どもに対して敬語を使うことが不自然であることは、誰が見ても明白です。
立派な接遇をしようとして、聞きなれない言葉や過剰にへりくだった言葉を多用すると、その場の雰囲気が堅苦しくなります。場合によっては二重敬語など間違った日本語になってしまうこともあるため、無理に難しい言葉を使う必要はありません。それよりも、適切なスピードで聞き取りやすい話し方を心がけることが大切です。
立ち居振る舞い
美しい立ち居振る舞いは、相手に好印象を与えるうえで非常に重要な要素です。威圧感を与えず、適度な距離感を持って上品に振る舞いましょう。立ち居振る舞いも言葉遣いと同様、その瞬間だけしっかりやろうと思っても簡単にできるものではありません。相手に対して敬意をもって対応しましょう。
接客では、相手に対して正面から向き合うため、姿勢が特に大切です。普段から気を抜かず、よい姿勢を保つことを心がけましょう。姿勢のチェックは、横から見て耳、肩、腰、膝、かかとが一直線になっているかを確認します。また、猫背になったり顎が上を向いたりしないよう気をつけると、より美しい立ち居振る舞いになります。
4.接遇マナーを身に付けることで得られるメリット
接遇マナーは、お客様のために身につけるものと考えている人も多いでしょう。もちろん、正しい接遇マナーは、お客様との信頼関係を築き、スムーズな仕事の遂行につながります。一方で、社内的なメリットが多いことも事実です。
まず、スタッフ同士の会話に品が生まれます。スタッフの言動を見ているお客様は意外に多く、それが企業の評価につながることも少なくありません。常に見られていることを意識することで周囲からの好感度も高くなります。接遇マナーを意識したコミュニケーションは、スタッフ同士の考え方に対する理解も深まり、仕事の効率が上がります。職場の雰囲気もよくなり、働きやすい環境になるでしょう。
接遇マナーを身につけることで、質の高いサービスの提供ができる、クレームへの対応能力が培われるなど、意欲とスキルが向上し、スタッフも自信を持って働けるようになります。結果として企業の評判はよくなり、ロイヤリティの向上にもつながるでしょう。
5.外部研修を利用して接遇マナーを身に付けよう
接遇マナーを身につけることは、お客様のみならず企業や働く社員にとっても多くのメリットがあります。一方、日常の業務をこなしながら接遇マナーを教えたり、覚えたりすることは容易ではありません。接遇マナーを効率的に身につけるために外部研修を利用するのもひとつの方法です。
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