パワハラ問題がメディアで取り上げられることが増えてきました。あらゆる業界でさまざまな事例が存在することが認識され、広く社会を巻き込んだ問題となっていることに危機感を覚える人も多いのではないでしょうか。現実にパワハラが起きている企業も、そうでない企業も、より良い組織作りには対策が欠かせません。ここでは、パワハラへの具体的な防止策や解決策、再発防止に向けての取り組みについて紹介します。
1.パワハラとは?職場におけるパワーハラスメントの定義
職場におけるパワーハラスメントとは社内の立場などを利用して、相手の心身に度を超した苦痛を与えたり、労働環境を悪くしたりする行為を指します。わかりやすい例は相手を殴る、蹴るといった肉体的な攻撃や、執拗に叱る、怒鳴るなど言葉による精神的な攻撃です。さらに、パワハラにはそのほかの事例も数多く存在します。たとえば、仲間外れや無視による人間関係からの切り離し、適正な量を超えて無茶なノルマを課す過大要求、掃除や雑用といった能力に見合わない仕事だけを与える過小要求、プライベートに口出しをする個の侵害などです。人手が足りない業界などでよく聞く、休日中に「今から出勤してほしい」と指示をし、選択の余地なく休日出勤を強いることも該当します。
パワハラの範囲は思っていたよりも広いと感じた人も多いのではないでしょうか。
2.パワハラを受けたことがある人の割合
一般的に考えられているよりも、パワハラは高い頻度で起こっています。平成28年度の「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」によれば、「過去3年間に1度、あるいは何度もパワハラを受けた」と答えた人の割合は全体の32.5%でした。すなわち、会社などで働く人のうち、約3人に1人がパワハラを受けているということになります。
また、職場における「いじめ・嫌がらせ」について、労働局に寄せられる相談件数も年々増えています。平成18年度には約2万2000件だった相談が、平成29年度には約7万2000件まで増えているのです。これらの統計データから浮かび上がる実態は、企業がパワハラ防止に取り組むことの重要性を明確に物語っています。
3.パワハラ防止のための取り組みの実施状況
パワハラを放置すると、人材の流出や生産性の低下、企業イメージの悪化など、企業にとってさまざまな弊害が生じます。各企業がパワハラを防止するために積極的に取り組むべき状況だといえますが、特に小さな企業では実態が伴っていないようです。前述の報告書によると、従業員数1000人以上の企業では88.4%がパワハラ防止に取り組んでいる一方で、99人以下の企業で取り組みを実施しているのは26.0%にとどまっています。ほとんどの企業がパワハラ対策は重要な課題であることを認識しながらも、実際の実施状況については企業規模によって大きな差があるのです。
さらに、従業員目線のアンケートでは、パワハラ防止の取り組み率はさらに低い結果となっています。勤務先がパワハラ防止に「積極的に取り組んでいる」または「取り組んでいる」と答えた従業員の割合は、従業員数1000人以上の企業でも51.6%、99人以下の企業の場合は9.2%でした。企業はパワハラ対策に取り組んでいるつもりでも、従業員はその効果を実感していないのだといえるでしょう。
4.2020年6月施行のパワハラ防止法
2020年6月1日に「パワハラ防止法」が施行されました。大企業は2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日からこの法律が適用されます。パワハラ防止法の施行によって、パワハラ対策の措置を講じることが全企業の義務となりました。これまでもパワハラが容認されていたわけではありませんが、法律で措置義務が明文化されることで各企業の意識が高まり、パワハラの発生件数が減少する効果が期待されています。また、パワハラへの社会からの注目度も大きくなるため、パワハラ問題の露呈は企業イメージを大きく落とすことにつながるでしょう。さらに、精神障害の労災認定基準の項目にも「パワーハラスメント」が追加されており、各企業は慎重に対応することが求められています。
5.パワハラを起こさないために職場でできる5つの対策
パワハラ対策の重要性を認識している人材教育担当者は多いです。しかし、社会問題になるほどの大きな課題であるために、どこから手をつけるべきか悩む場合もあるかもしれません。そこで、自社でパワハラを防止するための具体的な対策方法について説明します。
5-1.企業のトップによるメッセージ発信
企業のトップの発言が会社全体に対して非常に大きな影響力を持つことは周知の事実です。だからこそ、パワハラ問題についても、まずはトップが組織の方針を明確に伝えることに意味があります。具体的には、パワハラ問題は全従業員が取り組むべき重要課題であること、そして、なぜパワハラ防止が必要なのかという根拠についてもはっきりさせることが有効です。こうすることで、同じ職場で働く人の人格を認め、尊重し合うことに対する意識が生まれやすくなります。さらに、改革が進むとパワハラ被害者やその周囲の人たちが問題点や解決策について発言しやすい環境が整ってきます。パワハラ問題への取り組み成果をしっかり上げるためにも、トップによるメッセージは重要です。
5-2.ルールの制定
パワハラ防止という大きな課題に会社全体で取り組むためには、具体的且つわかりやすいルールが必要です。一般的には就業規則や労働協約などの書面でパワハラに関するルールを明確にします。ルールを制定するときは経営側だけで判断するのではなく、従業員や労働組合の意見を聞くようにしましょう。具体的なルール内容としては、パワハラ行為の禁止、起きてしまった場合の罰則や処分、相談者に対する不利益な取扱いの禁止などを盛り込みます。相談者に対する不利益な扱いとは、パワハラ被害者を本人の意思に反して異動させたり、黙認するよう圧力をかけたりする行為のことです。また、ルールは周知できなければ機能しないので、就業規則などの変更について全社に発信することも徹底します。
5-3.アンケートの実施
実際のパワハラ防止対策やルールの制定をする前段階として、アンケート調査で職場の実態を把握するのも効果的です。この方法には実態把握以外にも主なメリットが2つあります。1つはパワハラ問題に対して会社が積極的に取り組もうとしているというメッセージを伝えられる点、もう1つは回答者のパワハラへの気づきや理解を促せる点です。
アンケートを実施する際はできる限り対象者の偏りをなくし、匿名を基本とするのが望ましいでしょう。また、アンケートの手段や回収方法はよく検討することも大切です。サービス業の場合、本部と各店舗が地理的に分散していることがよくあります。この状態で紙のアンケートを実施し、代表者が回収するような方法にすると、内容が漏れたり、隠蔽したりといった問題が起きてしまうかもしれません。アンケートはWebを活用することもできるので、職場に合った方法を選択するようにしましょう。
5-4.研修やセミナーでの意識向上
パワハラ対策について、最も効果的な方法は人材教育の過程で実施する研修やセミナーの受講です。会社全体でパワハラへの共通の理解を持てるので、高い成果を期待できます。研修やセミナーは全社員が受講できるようにすることが大切ですが、内容に差を設けるのも手段のひとつです。たとえば、マネジメント層と一般の従業員といった具合に階層に分けて学ぶ方法があります。立場の違いを意識した研修では受講者に関係の深い事例を中心に扱えるので、自分事として受け止めやすいのが特徴です。また、会社方針や規則、実際の取り組み内容などを含めることで、より高い関心を集めることができます。
5-5.社内での周知・啓蒙
会社の新しい取り組みは自然に広がっていくことを期待せず、積極的に周知のための仕掛けを活用することが重要です。パワハラ対策について社内での周知を促すには、さまざまな方法があります。たとえば、人事部門や組織のトップがパワハラ対策について説明会を実施する、ポスターやカード類を使って相談窓口を案内するといったものです。ほかにも、パワハラについてわかりやすく説明した冊子を作成して配布したり、評価面談などの機会を利用して口頭で伝えたりすることもできます。パワハラ問題は定期的に確認することが防止に有効なので、意図的に時期をずらして施策を実施するのも良いでしょう。
6.もしも職場でパワハラが起きてしまった場合は?
パワハラ問題が起こらないようにするための対策はもちろん重要です。しかし、それと併せて起きてしまった場合の適切な対処方法を持つことも必要となります。もしも社内でパワハラが起きてしまった場合、どのように解決したら良いのでしょうか。
6-1.相談や解決の場の提供
パワハラが実際に起きてしまった場合、被害者を精神的にも物理的にも孤立させないことが重要になってきます。そのため、相談窓口の設置は欠かせない施策のひとつです。トラブルは大きくなるほど対処が難しくなるので、可能な限り初期の段階で気軽に相談できる仕組みを用意しましょう。たとえば、相談者のプライバシー保護や相談することによる不利益な扱いの禁止、相談窓口の対応の仕方などを明確に伝えておくのが有効です。被害者が安心して相談できる場所があれば、パワハラの早期解決が可能となります。
6-2.パワハラの労災の適用
パワハラは労災認定される可能性のある重大な問題であると認識している人は少ないかもしれません。もしも社員から申し出があった場合、迅速かつ丁寧な対応が必要となります。労災は労働保険の一種で、正式には「労働者災害補償保険」という名前です。業務上や通勤途中のケガや死亡事故の際に適用されるというイメージが強いですが、パワハラが原因で心身に支障をきたした場合にも認定される可能性は大いにあります。
パワハラの労災認定の主な基準は3つです。まず、うつ病や適応障害などの精神障害を発症していること、次に発症前の約6カ月間に業務上の強い心理的負荷が認められること、さらに発病の原因が職場以外にないことです。これらの基準を見ると、いかに初期の段階で問題を解決すべきであるかがよく理解できるのではないでしょうか。
7.パワハラを二度と起こさないための対策
社内でパワハラが起きてしまった場合、適切な対処をすることは問題解決には欠かせません。さらに、解決後の再発防止に向けても継続的な対策が有効となります。企業ができるパワハラ再発防止策には、どのような方法が考えられるでしょうか。
7-1.取組内容の検証・見直し
起きてしまったパワハラ事案について再発防止の取り組みをすることは、日常で取り組むパワハラ防止策と並んで重要です。再発防止策の主な取り組み方法には次の2つがあります。まず、パワハラの発生について社員に対し内容を報告し、会社としての方針を表明することです。この場合、個人名を伏せたり、マネジメント層のみに注意喚起を促したりする方法でも問題ありません。
次に、該当事例を基に社内ルールや研修内容の見直しを行うことも必要です。さらに、コミュニケーション不足や長時間労働の改善など職場環境に再度気を配ることも有効でしょう。トラブルをオープンにするのは勇気がいるかもしれませんが、会社として誠実な姿勢を見せることが結果としてプラスに働くケースが非常に多いです。
7-2.再発防止のための研修や注意喚起
パワハラの再発防止には、実際に発生したパワハラ問題の当事者に研修を実施するという方法もあります。その際は当事者が同席することにならないよう配慮することが大切です。社内での研修が難しい場合は、社外のセミナーなどを利用してもかまいません。受講後にレポートや報告書の提出をしてもらうことで、内容や理解度についてある程度把握ができます。
8.まとめ
パワハラのない職場環境はそこで働く一人ひとりの意識によって育てられるものです。そのため、会社全体としてパワハラ問題に関心を持つことが重要となります。社内での周知活動や注意喚起のきっかけとしては、研修やセミナーは直接的な効果が最も期待できる手段です。より良い職場を目指すことを考えたときは、ホスピタリティ&グローイング・ジャパンのハラスメント研修は大きなサポートとなるでしょう。相談件数が最も多いパワハラと、セクハラを中心に、ハラスメントを正しく理解し、トラブル防止、組織のパフォーマンス向上を目的とした研修となっているので、具体的な対策方法のひとつとして、積極的に活用してみてはいかがでしょうか。